2013年02月28日

 春まだ遠し五題

 浮かびては 消えゆく水泡(みなわ)春きざす

 わたしの散歩コースは、井の頭池から神田川にそった木立のある路で、何十年もかわらない。
 一年中、同じ路を歩いていると、季節の移ろいが、おのずと、目に入ってくる。
 神田川の風景も、その一つで、風が冷たい川辺は、緑も消えて、寒々しい。
 冬の神田川に浮かび、漂い、消えてゆく水の泡――。
 わたしは、そこに、春の兆しを見ようとしている。
 水泡(みなわ)は、みなあわの音変化で、すべて、泡のようにはかない。
 日々の出来事も、一過性で、水泡のようなものである。
 そんな水の泡も、浮かんで消えて、明日へつながってゆく。
 よく見ると、川辺の木々が、新芽をはらんで、春を待っている。

 初雪や 上つ枝(ほつえ)で華と なりにける

 上つ枝は、上の方にある枝で、中つ枝や下つ枝(しずえ)という類語もある。
 天皇を讃える歌に由来したことばで、上つ枝は天(あめ)を覆(お)へり、中つ枝は東(あづま)を覆へり、下づ枝は鄙(ひな)を覆へりというのは、天皇の威が、天に届き、東国にまでのび、地方にまで至っているという意味である。
 俳句で上つ枝という場合、空に近い枝で、陽を浴び、新芽をはらんでいる。
 その上つ枝に雪の花が咲いている。
 そのコントラストがおもしろかった。
 関東の初雪は、たいてい、年明けで、年が明ければ、新春である。

 笹鳴きや 上つ枝(ほつえ)で寒き 日暮かな

 笹鳴(ささなき)は、冬の季語で、若い鴬が、里近くの笹藪などのなかに身をひそめて、チチチと鳴く風情。
 そこから、鴬の子は、笹子と呼ばれる。
 笹子は、雌雄とも、地鳴きをするが、春になると雄だけが、上つ枝に飛び移って、ホーホケキョと鳴く。
 だが、いまは、寒風に笹が鳴り、上つ枝が、寒々しく冬の空にかかっているだけである。

 老いづきて 月も寒がる 霜夜かな

 夜空に浮かんでいるのは、老月で、下弦の月である。
 その三日月が、いかにも、寒々しい。
 霜夜は、空が晴れて、地上に霜が降りる夜で、底冷えがする。
 年齢のせいか、最近、めっきり、寒さに弱くなった。
 老い就きを老月にひっかけて、鼻水をすすっているのである。

 冬川や 枯葉澱みて 細りけり

 秋の落葉が、川に澱んで、小さなダムをつくっている。
 神田川の周辺は、落葉樹が多く、冬は、川の水量が少ない。
 そのせいでもあるまいが、流れが細って見える。
 散歩の途中でみつけたそんな風景も、一つの冬の風物なのである。
posted by office YM at 13:10| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする