赤坂日枝神社の神殿裏の部屋で、毎週、有志と座禅を組んでいる。
警策を打つのは、山岡鉄舟が、幕末・明治維新の国事に殉じた人々の菩提を弔うために建てた谷中の名刹、全生庵の和尚で、同寺は、歴代首相がかよった座禅の名門でもある。
木々に囲まれた赤坂日枝神社は、夏の盛りになると、蝉時雨(せみしぐれ)につつまれる。
肩に警策を打たれても、耳には、せみの声が響くばかりである。
夏が去って、日枝神社の空が高くなったが、耳に、まだ、せみの声が残っているのである。
一垂や 踊りてすぎる 夏嵐
一垂の ゆれてほのかな 秋を知る
一垂は、日よけのために吊るす簾(すだれ)の数え方で、ひとたれと読む。
すだれは、竹やヨシなどを編んだ夏の風物詩で、昔は、どこの家にもあったが、最近は、あまり、みかけない。
簾には、ちょっと、粋な風情があって、編んだヨシをとおして見えるひとのすがたは、どこか、なまめかしい。
簾を躍らせて、過ぎていったのが、夏の嵐なら、いま、しずかに簾を揺らしているのは、秋の風である。
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